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火怨 北の燿星アテルイ 上下  高橋克彦著

とても失礼ながら、高橋克彦の本はたまに失敗する。“何なんだ、このオチは…”とか“うーん、失敗…”とか。もちろんおもしろいのもいっぱいあるのだけど。という話を以前友人としてたらば、『「アテルイ」は失敗しない』と言われたので買ってみた。(古本屋でだけど) それでしばらくほったらかしてしまってたのだけど、秋になって読み始めた。(おもしろいと思うのに、しばらくは通勤電車でしか読めなかったので時間がかかってしまった)
重い話かなぁ~、とちょっとばかり警戒はしてたのだけど(タイトルがタイトルだし)、全然そんなことなかった。軽くもないけどね。

辺境と蔑まれ、それ故に朝廷の関心も薄く、平和に暮らしていた陸奥の民。だが黄金が取れることが知られてから、朝廷の大軍が押し寄せてくる。時は8世紀。蝦夷(えみし)の若きリーダー、阿弓流為(アテルイ)は仲間らとともに遊撃を開始する。「蝦夷は獣同然」と蔑視する朝廷に対し、果然と立ち向かうアテルイ。決して裕福ではないが(当時、黄金にどれほどの価値があるのかを彼らは知らなかった)、愛する山と大地と民を守るため、圧倒的な人数を誇る朝廷軍と幾度となく互角(もしくはそれ以上)に渡り合う。
ひとことで「蝦夷」と呼んではいても、それぞれに町や集落があり、そこに長がいるので最初からまとまっているわけではない。朝廷に対して警戒心が薄い者たちもいる。彼らがやがてアテルイを「蝦夷の長」と認め、朝廷に刃向かうなど無理だと決めつけていた者たちが「アテルイならば」と信奉していく過程、そしてアテルイとその右腕となる母礼(もれ)、飛良手(ひらて)、猛比古(たけひこ)、伊佐西古(いさしこ)らの活躍は読んでいて痛快だ。特に策士である母礼の頭の回転の早さ、先を読む眼力、そして誰も思いつかないような戦略には喝采を送りたくなる。

「雪丸は歴女か」という質問を過去に3度ばかり受けた。いまや「鉄」とか「鉄子」と並んで市民権を獲得したかのような呼び名だけど、残念ながら違う、とその度に応えてる。あたしは歴史に疎いし、歴史物を読むのが好きではあるが、いつの時代がいいとか誰がいいとかいうのもない。本書のような小説を読むと、どこまでが史実でどこが作者の創作なのかてんで判断ができない。ただ、それでいいとは思ってる。読んで楽しめる。あたしの読書はそれが一番で、ジャンルは問わない。

蝦夷軍の3倍、5倍、さらには10倍の軍を投入しても蝦夷征伐が成らない朝廷はついに「武人として最も優れた男」、知将、坂上田村麻呂を送り込む。彼の名は知っていたが、「それでどうなったのか」は知らないので、歴史に明るくない方が幸いするってこともあるのだな、とふと思った。歴史に詳しかったら結末もわかっててつまんないじゃん。まぁ、蝦夷が朝廷に勝利してたらその後の歴史も変わってたわけだから薄々とは結末もわかるけどね。歴史の教科書なら数行で語られ、試験にパスしたあとは頭の片隅にも残っていないことなのだろうけど、その「たった数行」がどれほど壮大なドラマだったかを、小説を読むことで知ることが出来る。これが醍醐味、というものだろう。歴史(history)は「hi」を取ると物語(story)になる。その狭間を行き来することが出来るのはとても楽しい。作者は岩手出身なので、東北の英雄を書くのは他の作品よりもずっと想い入れがあるだろう。アテルイが活躍した300年後の陸奥を描いた、大河ドラマ原作ともなった『炎立つ』が読みたくなった。こっちは全5巻だ。さらに読み応えがありそうだ。

今日、そば屋に同窓会旅行帰りのハハが来た。驚いた。ウチの鍵が欲しいと言う。チチが出かけてるから鍵がないと入れないのだ。と、その鍵はロッカーのジャケットのポケットで、ロッカーまで往復すると5、6分はかかる。しかもあたしはかき揚げの真っ最中。ハハは諦めて帰宅したが、チチが帰るまで少し待ったらしい。悪いことしたな。つーか、鍵は家族分持とうよ。持ってたはずなのに1本どこ行ったんだ。
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by yukimaru156 | 2009-11-17 02:13 | 行った観た読んだ | Comments(0)

ちぎり絵ざっか作家 さゆきの  雑記帳


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