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  式の前日/さよならソルシエ  穂積 作

マンガでも小説でも、そのジャンルに関わらず「心地よく騙される」本が好きだ。ミステリとは限らない。思わず作者の術中にハマったなー、とか、このための伏線だったのかー、とか。「いい意味で裏切られる」みたいな、ね。(もちろんそういうのでなくても好きな本はいっぱいあるけど)
この「式の前日」は、友人から先日借りたマンガだけど、その前から結構よく見かけるなーと思ってた。なかなかの高評価であることはその友人から聞いて初めて知った。

「式の前日」は、まんまその通りの結婚式の前日の話。特にすごい事件があるわけでもなく、むしろ淡々とした日常のひとコマが(ただ式の前日であるという点だけがいつもと違うだけで)、淡々と綴られてる。2人の男女の、何気ない会話があり、何の会話もない時間もあり、ただ食事をして風呂に入り、寝床に入る。それだけだ。
ただ、この2人がどういう関係なのかは、日常の断片を伺い見てるだけではわからない。が、特にそれに引っ掛かることもなく読み進んで、そして最後に“あぁ”と思う。あぁ、この2人はそうだったのか、と。そしてもう一度、最初から読み返したくなるのだ。
「心地よく騙された」わけではない。ただ、こっちが「2人の関係が何であろーと波風が立っていない以上は気にすることもない」気分で心地よく読み、そして最後にこの2人の、特別な会話など何もなかったにもかかわらず、いやそれ故の「気持ち」がぐっと迫ってくる。味わいがある作品、というのはこういう本を言うのだなぁ、と改めて思った。20ページ足らずの、短い話なんだけどね。短いからこその味わい、なんだろうね。

で、同じ作者の「さよならソルシエ」は、1885年のパリ。芸術は特権階級のためのものでしかない、バリバリの権威主義に凝り固まった美術界で、その破天荒ぶりから白い目で見られてる画商、テオドルス。ってもしかしてゴッホの弟?!と思ったらビンゴで、もーそれだけで「ぶらぼぅ!」な気分だった。だってさ、みんな一度は気になったことあると思うんだよね、「兄が売れない画家、弟がそれなりに名のある画商」という2人の関係は。そこにあったのは愛か、憎悪か。兄弟であるが故の葛藤や、慈愛、苦悩、羨望、嫉妬…まったく別の道を歩んでいたら、もしくはまったく一緒の道を歩んでいたら、互いにもっと楽だっただろうと思える関係でしょう、画家と画商って。
主人公はテオであるからには、「画商から見た画家」でもあるのだろうけど、さーてそれをどう描くのかなー、とちょっとわくわくしながら2巻(完結)を読了した。こんな切り口でこう描いた(語った)か!すごいぞ、穂積サン!だった。何がどうすごいのか書くとネタバレにならざるをえないので書かないけど、たぶん誰も描いたことない「フィンセント&テオドルス」だったことは間違いない。と思う。2人については映画にも本にもなってるし、いろんな描き方されてると思うから「絶対ない」とは言い切れないのだけど。

にしてもかっこよすぎる、テオドルス!もーたまんないっす。2人の悲劇的な末路は既に周知の事実でもあるのだけど、読んでて“あぁ、でも本当はこうだったのかもしれない…”と思える。ブログの冒頭で「心地よく騙されることの快感」みたいなこと書いたけど、それと一緒で「真実はそうだったのかもしれない」と思わせてくれるのもまた快感であり、これぞ読書の醍醐味、とも言えるねぇ。
ちなみにタイトルの「ソルシエ」は「魔法使い」のこと。この意味もまた、読後にぐぐっと迫ってきます。借りた本だけど、買っちゃいそうだなー。

今日は朝からバイトの日で、だけならともかくチチのことでバイト前にオツカレモード…帰宅後は西へ東へとチャリを走らせ、「今日は午後から雑貨市の値札つけ」の予定が、夕方には“もういい、掃除してさっぱりして珈琲飲んでマンガ読んで寝る!”となった。実は穂積と一緒に水城せとなの「脳内ポイズンベリー」(3巻未完)も読んだのだけど、でもってそんなに悪くもなかったんだけど、穂積の前では霞んでしまいましたとさ。
あー、明日も朝からバイトだー。でもがんばるぞー、おー!
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by yukimaru156 | 2014-02-07 01:14 | 行った観た読んだ | Comments(0)

ちぎり絵ざっか作家 さゆきの  雑記帳


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