「長いお別れ」 レイモンド・チャンドラー著
実はチャンドラー作品を読むのはこれが初めて。読まずギライというよりは、名作傑作、ハードボイルドの金字塔、男の鑑(?)憧れ(?)みたいな扱われ方に逆にちょっと食指が動かなかった…のかな。いや、ハードボイルドは大好きなんだけどね。単に機会がなかっただけか。
私立探偵のフィリップ・マーロウがある日、「かつてなく礼儀正しい泥酔者」を「拾う」ところから物語は始まる。彼の名はテリー・レノックス。ほどなくして2人は「たまに飲みに行く」仲になるが、ある日彼は血だらけの状態でマーロウを訪ね、国境まで送って欲しいと頼む。金持ちだった彼の妻は顔をめった打ちにされて死んでおり、マーロウは逃亡幇助で捕まるが、犯人とされたテリーの自殺とともに事件はあっさりと解決する。マーロウのみが納得がいかない、という点を除いては。
読み進めてて、どーにも妙な違和感があり、それが何なのかを考えると、「マーロウの魅力がわからない」てことなのだとわかった。探偵にしては冷静さに欠けるところがあるし、結構行き当たりばったりだし、テリーの無実を根拠なく信じてるのはまあわからなくはないにしても、2人の友情にさほど強いモノも感じられず(なので共感できず)、女性に対する態度も紳士的とは言えない。(いや、誰に対しても、かな。どーも彼は猜疑心が強すぎる気がするな)
メキシコのホテルで自殺を遂げた友人の無実を晴らしたところで、何の得にもならないどころか敵と厄介ごとが増えるばかりなのは目に見えてて(とゆーか実際にそうなってて)、事件に巻き込まれて死人まで出る始末。まぁ、ある意味「お約束」な展開ではあるのだけど。
原作では「テリーの無実を証明する」と言うよりは「自殺ではなく他殺では」という観点から話を進めてて、そのあたりが舞台を戦後の東京に据えたドラマ「ロンググッドバイ」との差でもある。細かいところは別として意外に原作に忠実に作られてはいるのだけど、後味が微妙に異なるのはこの差のせいかなぁ…原作もドラマも、ここさえちゃんと抑えておけばよかったのに、と残念なのがテリーだ。彼が(マーロウにとって)どんな男だったのか、その魅力がちゃんと描かれてれば、無実を信じて奔走し、脅されたり誘惑されたり事件に巻き込まれたりしても「揺るがなかったこと」が生きてくるのにね。テリーがメキシコのホテルで書いた最後の手紙には(事件の真相には触れず)、こう書かれている。
『ぼくのためにギムレットを飲んでくれ。そして珈琲を淹れて煙草に火をつけ、それからぼくのすべてを忘れて欲しい』
これから自殺する男の、最後の頼みは、切なく痛い。結局のところ、マーロウは彼のことを「ほとんど知らなかった」に等しいのだけど、そんなことよりも「こういう手紙を書くような男だった」てエピソードが欲しかったな。何とゆーか、いろいろ残念だった。皮肉な捨て台詞や、妖艶な人妻の誘惑に乗らないことが(乗ってるけど、ある意味)、ハードボイルドではない。(これについて書くと長くなるので割愛) この小説のどこがハードボイルドなのか、いささか疑問だ。マーロウが「友情という名の幻想」にすがって走って振られただけなのだ。ドラマも同様。
ちょっと消化不良を起こしてしまったので、チャンドラーと同様の(?)理由で未読だった、ロス・マクドナルドを読み始め、ちょっと吉祥寺へ出たので用事を済ませたあと、B・オフでジャック・ヒギンズを買った。彼には裏切られることがほとんどないので安心。
さて、本日からこのWin8は「1MB以下」から「12MB」になった。どんだけよろしくなったのか、これからちょいと動画を見てみるつもり。どんな感じかなー。