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容疑者Xの献身

08年 日本
原作を読んでて、トリックも結末も知ってて、泣くとは思っていなかった。これは「容疑者X」(ネタばれにはならないと思うから書かせてもらうけど、石神演じる堤真一)の演技によるところが大きい。原作ではもっとダサダサの、いわゆる「冴えない高校教師(だけどものすごい天才)」として描かれている石神を彼が演じると知って“んん~?”と思ったのはあたしだけじゃないはずだ。それを彼は、誰もミスキャストとは呼べない演技で映画そのものを底上げしてくれた。

川辺に身元不明の死体が発見される。顔は崩され、指紋は消され、衣服は焼かれていたのだが、ほどなくしてその男の身元がわかる。無職で賭博にも手を出してたらしいその男に殺害動機のある者として、元妻が浮上する。石神はその妻の隣人で、彼女の勤める弁当屋の常連でもあるが、それ以上の仲ではない。そんな石神が元妻、花岡(松雪泰子)が犯人であることを知って完璧なアリバイ工作を仕組む。警察が「限りなく黒に近い」と思いながらも、決して崩すことのできない鉄壁のアリバイ。「ありえない、なんてありえない」と語る湯川(福山雅治)は、石神が大学の同期でもあったことから首を突っ込むことになり、このアリバイに挑む…という話。

ドラマで好評だったらしい、この湯川が主人公の「ガリレオ」をあたしは観ていないので比較も何もできないのだが、彼もまた決してミスキャストではなかったと思う。「論理的思考」に重きを置き、全ての現象は解明できると考える天才物理学者が、唯一「天才」と認める天才数学者。単純に「対決」とはくくれないのが、原作の、そして映画の根底にある「愛とは何か」という「物理でも数学でも解明できないもの」だ。それ故に両者は苦悩し、あがき、そして自らに問う。「誰も幸せにならない解決に意味はあるのか」と。

この映画、とてもいい出来なのだけど、ちょびっとだけ不満なシーンがある。(本筋とは関係ないので書かせてもらう) 
湯川が久しぶりの再会に、石神宅に酒と数学のレポートを持ち込む。その定理に対する反証が合ってるか否か、みたいなもので、石神は嬉々としてそれに飛びつき、湯川の存在すら忘れて計算に取り組み始める。そして明け方になって叫ぶ。『解けたぞ、湯川!この反証には致命的なミスがあるんだ!』。うたた寝してた湯川は寝ぼけ眼で『実はそうなんだ』と白状する。それを解けるかどうか、かつての天才数学者が衰えていないかどうかを見るためだけに湯川がそのレポートを持ち込んだのだけど、この原作にもあるシーン、湯川の『6時間か、天才健在だな。安心したよ』という台詞だけでは、見ている側にはなぜそれが天才健在の理由になるのかわからない。原作本を返してしまったのでいまここで確認できないのだけど、確か『ウチ(帝都大学)の教授ですらそのミスを発見するのに○日かかった』とか『できなかった』とか、そんなような台詞が続くのだ。これで見ている(読んでいる)側はようやく“へー、石神ってすごいんだ”ということが漠然とでもわかるのに。なぜ外したんだろう…?
何か重箱の隅を突いてる気分になってきたけど、何となくそこんとこが気になったのだ。本では一心不乱に、湯川の存在なんか忘れて数式に取り組むのに、映画では彼のこと気にしたりするし。

あたしは数学は苦手だ。でもだからこそ、「数学は美しい」と言える人をすごいと思うし、尊敬する。以前読んだ『博士の愛した数式』(たしかここでも紹介したな。カテゴリの「行った観た読んだ」を参照されたし)でも書いた気がするけど、数字は時として言語以上に「語る」し「極めるほど美しい」ものなんだと思う。けれど、そうは理解されにくいものであることも事実で、かつて天才と呼ばれた石神が研究者としての道を進めず、数学に何の興味も持たないような学生たちを相手に教師をしている、という不遇さは、決して特殊ではないだろう。むしろ、好き放題に研究できてる湯川みたいな教授の方が稀なのではないかな、この日本では。
そんなこんなを考えつつ、でもこの映画は素直によかったと思えた。トリックも結末も本と同じでも、本では持たなかった感慨を抱くことが出来たし。
あ、原作にいない柴咲コウについて。彼女は意味ないです、全然。好きキライの問題ではなくて、「映画(ドラマ)に花が必要」と考える旧式頭な人たちの思い込みのみで作られたキャラなのでね。

新宿で画材その他必要なモノ買って、夕方からそば屋。睡眠時間4時間余りだったので眠くてしょーがなかった。そば屋ではシャキっとしてたけど(かき揚げ揚げながら寝るわけにゃいかんし)、セカイドとか「あったかい店内」にはヤラレた。選んでるはずなのにウトウトしてきてさ。でも明日もゆっくり寝られないんだった…うぅ、個展前に映画観た罰として受け入れなくては。
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by yukimaru156 | 2008-11-29 01:53 | 行った観た読んだ | Comments(0)

ちぎり絵ざっか作家 さゆきの  雑記帳


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