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東京タワー オカンとボク、時々、オトン  リリー・フランキー著

何をもって「親孝行した」と言うのかは、難しい。金銭だけでないことは確かだけど、それがなければできない親孝行もあるし(つまりこれがないと孝行できない、というような場合もあるわけだ。頻繁に帰省してあげたいけどできない、とか)、血のつながった親子であっても「孝行」の定義は違うだろう。親にとっては「元気でいてさえくれれば」だけど、子供にとっては「それ+a」で、しかもその「a」を「何と定義するか」が問題だったりする。結婚して孫を抱かせてやるとか、家を建てて一緒に住むとか、頻繁に行き来したり旅行に連れて行くだとか。

あたしは氏の活動(イラスト描いたりするだけでなく、コラムとか脚本とか舞台関連の仕事とか、マルチな人であるらしい)を知らないのだけど(この本がベストセラーになって初めて名前を知ったくらいだ)、破天荒な父と別居した母、自立しようともがく子供、という図式はそう珍しいことではないと思う。若くして東京を目指す、ということも。ま、それで(身ひとつで)上京してきて、それなりに東京を楽しんでいるはずがいつのまにか「東京」という名の泥沼にずぶずぶとはまり込んでしまい、友人や彼女や果ては金融会社に借金をするようになり、夜逃げ同然で引越し、までは「よくあること」でも、以降「フリーで生活できるようになり、母親を呼び寄せることができるほどの余裕もできる」人、ってのはそういないんじゃないか、と思う。比率としてはわかんないけど。もっとも、金銭的に余裕があっても「両親とまた住むのは(生活習慣の違いから)無理」な人も多いだろーから、そういう意味では30前後の独身でも同居を決意した彼は特異かもしれないけど。

『どれほど親孝行をしたとしても、亡くなれば必ず自分を責めるのよ。ああしておけばよかった、こうすればよかったんじゃないか、って』
この本は、リリー氏の生い立ちから、東京での生活、そして父と別居はしているものの離婚してはいない母を郷里から呼び寄せ、彼女を看取るまでの話だ。おもしろおかしく書いているわけでもなければ、悲壮感が漂うつらい書きかたをしてるわけでもない。淡々として、でも鋭利な刃物は忍ばせつつ、泣いたり笑ったり怒ったりする日常を連ねていく。その一喜一憂の出来事に共感したり、へへーと唸ったりしながら、母親を看取った彼の涙に、きっと誰もが思うのだ。リリーさん、あなたはとても親孝行だったよ、だから自分を責めることないよ、と。そして同時に、上記の台詞に思う。“あぁ、そういうもんだろうなぁ”と。

オカンは幸せだっただろう、と思う。成人した息子が、所在を失くした自分を受け入れてくれただけでなく、60過ぎて不慣れな土地にやって来て、でもいろんな「東京」を眺めて歩き、息子の友人らに食事を作り、慕われ、愛され、自身でも友人を作り、姉妹と旅行し、常に周辺は賑やかで明るかった。そういう生活のできない「老親」が、この東京に一体どれだけいるだろう?孤独を噛み締めている人たちが。オカンは幸せだっただろーな、よかったな、と思えたせいかどうか、あたしは「号泣した」という人が多い本書を泣かずに読了した。葬儀で、息子の友人たちに『おかぁさーん、おかぁさーん、淋しいよぉ~』と泣かれる人なんて、そういるもんじゃない。葬儀に集まった大勢の人たちは、みんな「オカンの手料理を食べた」人で、彼、彼女たちは「リリー氏の友人」であり、そして「オカンの友人」でもあったのだ。闘病の苦しさは(看護する方も含めて)想像以上に大変だったと思うけど、最期まで「息子の母親」として生きた彼女に悔いはないだろう。
そしてオトン。この、合間、節目にしか登場しないながらも、ただ「わが道を行く無頼派」だけではないおかしみや切なさが、何とも憎めない感じだ。夫婦の在り方としては失敗したけど、でも「オトン」としての存在感は揺るがない。一番凄いのはそこんとこかもしれない。と同時に、「親子」ではなく「夫婦」というものもちょっと考えさせられた。

にしても、危篤状態の母親に対する看護婦の態度とか、母親に死なれたその日に原稿を要求する編集者とか(「入稿」ならまだしも「検閲」なのだ、融通とか臨機応変とか情とかという言葉を知らんのか!)、ぼったくる葬儀屋とか、むかつく連中も結構いて歯軋りした。何なんだ、あんたらは。
氏がぼかして書いてるとこもいろいろあるので(それはそれで想像力を駆り立てられるのだけど)、ちょっと気になったりした。何、と書くわけにもいかないのだけど、「書かないことで煽る」策略だったのかなぁ。上手いや。

たかがこれだけの感想文で疲れた…今日はそば屋でかき揚げ160枚、あさりかき揚げ(メンドな上にちびっと技術もいった)30枚で疲れたし。明日は自分の仕事に精を出そっと。
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by yukimaru156 | 2009-03-13 02:51 | 行った観た読んだ | Comments(0)

ちぎり絵ざっか作家 さゆきの  雑記帳


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