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『チェンジリング』

09年 アメリカ
「チェンジリング」とは「取り換え子」のことだ。妖精がそんないたずらをすることがある、という言い伝えからきてるものらしい。20年代のロサンゼルス。シングルマザーのクリスティンは9歳の息子とつつましく暮らしていたが、彼はある日突然失踪。そして5ヵ月後、警察から「無事保護」と送り届けられた子供は別人だった。即座に「自分の子供ではない」と訴える母親と、その非を絶対に認めない警察。いくら何でもそんなバカな、という事件だが、当時のロス市警は(いろんな形で映画化されているように)、怠慢と汚職と腐敗にまみれた、本当にひどいところだったらしい。これが「実話」であることがまず“いくら昔だからって…”という印象だ。
見知らぬ子供を預かったものの、納得のいかないクリスティンの奔走と闘いが始まる。身長が違い(7センチも低い)、割礼を受けてて(息子はしていない)、掛かりつけの歯医者や学校教師が「別人である、証言台に立ってもいい」と請け負っても決してミスを認めない警察は、最早「怠慢」を通り越してただ「保身に走るだけ」の組織だ。そして「国家権力」であることを最強の盾として、ついには母親を「育児放棄、被害妄想、警察に対する中傷」その他で精神病院へ放り込んでしまう。

C・イーストウッド作品は何故かあまり観ていないのだが、重厚な社会派ドラマを丁寧に作る印象がある。(友人と『K・コスナー主演のやつ、何だっけ…・?』とあとで唸って結局わからないでさっき調べたら『パーフェクト・ワールド』だったのだが、驚いたのがその作品リスト。62本もあった!いつのまに!だ) 
本作も、内容だけを書くと、重くてとっつきにくい、きつい感じがするのだけど、実際に観ると意外にそうでもない。警察の対応はひどいモンだし、最愛の息子の失踪や、それを訴えて精神病院へぶち込まれるなんて実際にそんな目に遭ったらとてつもなく怖いと思うのだけど、彼はそれを「ホラー」にはしない。それが彼の描きかたなのだろう。警察側にしろ、母親やそれを支援する牧師たち(警察の腐敗と戦う人たち)側にしろ、極端に感情移入することなく、むしろ淡々と話を進める。その淡白さは、けれど「物足りなさ」にはならず、むしろ「だから安心して観ていられる」ようになっていて、それこそが監督の力量なのだと思った。2時間以上であるにもかかわらず、長さを感じさせない。だらけもせず、かといって引っ張られる緊迫感に押し潰されそうになることもない。
当時(この時代背景もホントによく作られてる)社会現象にまでなったであろう大事件を「母強し」「警察悪し」だけで描かなかったことが、高評価につながっているんだと思う。警察の腐敗ぶりはひどいけど、その糾弾に走るときっと物語の主軸はぶれただろうな、と思うし。

中盤、キーマンとなる少年が現れるのだが、彼の使い方が上手い。演技もよくて、少ない出番ながら、監督が「ここをきっちり抑えよう」と意図したのがよくわかる。そういう「ツボ」みたいなのを心得てるのだな。主演のアンジェリーナ・ジョリーは、何か「アクション女優」みたいな印象が強いけど、こういう役でもきっちりできるのだ、と改めて見せ付けてきた感じだ。彼女の初出演作(だと思う…違ったらごめん)『17歳のカルテ』では、やはり精神病院に放り込まれた10代の女の子を演じてたけど、そのときの演技を鮮明に思い出した。(確か何かの助演女優賞を獲った気がする) 環境団体その他いろいろ支援してて、多国籍な養子とブラピとの子供と育てて、そんで美人でアクションも演技もできるとなりゃ、怖いモンないよなぁ。すごい人だわ。
ともあれ、久々に観た映画だけどよかった。この展開に対してこの結末、もいい。「大団円」な結末の映画よりも、こういった「ほのかに希望の光が差す」みたいな結末の方があたしの好みではあるな。

ところで映画とはまったく何の関係もないのだけど、予告に流れた某シャンプーの、いまテレビでもさんざん流してるK・Z・ジョーンズのCMがあっっっまりにもムダに長くてまいった…短編映画ばりの作りで金かけてるのがイヤというほどわかるのだけど、「だからどーした、知るか、そんなシャンプー」という感想しか出てこないってのは、CMとして失敗してるんではないだろか。セダが悪いんじゃなくてね。
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by yukimaru156 | 2009-03-25 01:37 | 行った観た読んだ | Comments(0)

ちぎり絵ざっか作家 さゆきの  雑記帳


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