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  春画展

さて、語るよ、浮世絵春画。艶本。枕絵。わ印。好色本。
まぁ一般の知識からすると、これらは一様に「わいせつ画」であって、「公序良俗を乱す云々」となる括りに入るわけだけど、でもって江戸時代のそれらの本は「昔は性に対して大らかだった」とか「男も女もスケベだった」「性教育としての一環であった」「娯楽が少なかった時代の遺物」あたりに収束してくのだけど、違うからね。間違ってはいない部分もあるけど、あたしが語りたいのはそこじゃないから。これ読んでちょっとでも興味抱いて“観たいかも”と思ってもらえたら嬉しい。

江戸時代、「好色本発禁」は3度発令されている。享保7年(1722)、寛政2年(1790)、天保13年(1842)。つまるところ、公のお墨付きでない本は表に出せないってことから地下出版が盛んになってくわけだけど、ただそれだけで春画が発展してったわけじゃあない。奢侈禁止令(庶民は贅沢しちゃあかん、てヤツ。着物の色も生地も指定され、豪華な作りのものは一切NGとされた。有名な「江戸小紋」柄が発展したのは、そんなのガマンできなーい、と思う江戸っ子と、技術を持った匠たちのおかげ。遠目には地味に見えるけどよく見ると凝った意匠は、かくして「粋」となったわけだ)は、歌舞伎のみならず浮世絵や出版物にも影響した。名だたる絵師たちがこぞって春画に手を出したのも、性に対する認識がいまと異なるとは言え、それ以上に豪華絢爛な多色刷りの絵なんか描こうものならお咎め必定だからだ。彫師、摺師に至っても同様。その高い技術を駆使できない公印本にどんな意味がある? 木版画は一色ごとに紙を摺ってくわけだけど、20、30摺りと重ねるには相当の技術がいる。それを「3摺まで」なんて、三ツ星レストランのシェフに「給食だけ作ってろ、1食300円で」と言ってるよーなもんじゃん。

贅を凝らした本を作れる(金がある)者と、それを見たいと思う者と、応える技量のある者が「公印なくたっていいだろ」と考えるのは当然の成り行き。1ミリに6本の毛髪を彫る彫師は絡み合う陰毛を彫り、絵師の描いた脱ぎ散らかされた着物の凝った意匠に、摺師は数色を使う。だったら何も春画でなくても…と思うかもだけど、そのあたりが当時の人たちとの認識の違いかな。春画ってのは、浮世絵の中の1ジャンルであって、役者絵とか武者絵とか美人画、花鳥画、風景画と区別されるようなものではなかったのよ。歌麿だって広重だって描いてるしさ。(歌麿に至っては『役者絵なんて描かない』と言ってたらしーし。役者人気にあやかりたいくない、てことだけど春画はいっぱい描いたんよ。しかもモデルの大半は奥さんという、それってどーなんだ的な) 

公には出来ないから、当然隠号を使うし、落款も違う。でも「これは誰」てのは一般的によく知られてたらしい。だから人気の絵師は春画でも人気だった。俗に「豆男」と呼ばれるシリーズがあって、よーは小人くらいの小ささの男がいろんな性交シーンを盗み見る読本なんだけど、春信が描いたら爆発的に売れたそーだしね。あたしの好きな絵師の一人、国貞は着物の意匠なんかが素晴らしくて(実際に着物の意匠も描いてる。余談になるけど、彼の描いた挿絵の男衆たちの入れ墨のカッコ良さに当時の男たちは狂喜して真似たそーだ)、隠号は「婦喜用又平」ってんだけど、彼の春画とか“キタキタキターっ!!!”て気分になるもんな。名前なんかどーでもいーや、見れたらそれで、て思うもん。

語り出すとキリがないのだけど、肝心の今日の「春画展」についてはまだ何も書いてないやね…うーん。どー言やぁいいかなぁ。
先に海外で認められ、国内での春画展は何とこれが初。しかも春画展と聞いただけでどこの美術館も断り、開催してくれる場所がなくてこのまま頓挫するのかと思いきや、元首相で御先祖はお殿様であった細川護熙氏の代々の所蔵品を陳列してる永青文庫が手を挙げてくれた、という紆余曲折を経た展覧会。蓋を開ければ連日盛況、断った美術館よそれみたことかな展開。
が。展覧会としてはどーなのかなぁ。浮世絵研究家で春画に対しても何ら偏見を持たず、数々の著作を出してる林美一氏の本を愛読した身としては、ちょっと物足りない、と言わざるをえない。数年前に鬼籍に入られた氏が見たら、何と言ったのだろーか。『代わりに私の蔵書を出しなさい』と言った気がする。北斎の大蛸と海女の交歓図とか、国貞や英泉をナマで堪能できたのはよかったのだけど。

前述の春画に対するあれこれはほとんど氏の受け売りで、今回の展示にこういった説明は皆無だ。ただ、性の大らかさを褒めそやしてるだけに見える。加えて(こんな雨の寒い平日にもかかわらず)やって来た老若男女たちは、知ったかぶった会話であたしをキリキリさせてくれた。そーじゃねぇ! とか、右下の解説読め! とか、何度も声をあげそーになったほどだ。あたしだってそんなに詳しいわけじゃないけどね、ちったー頭働かせて、当時がどんな時代でどんな背景があったかとか考えてもいーんじゃないの。
おまけに物販コーナーのお粗末さよ。あんなボケたプリントでペラペラのエコバックが1800円だと?! 摺師が見たら泣くぞ。トランクスとか褌とかさー。このプリントや生地でこの値段はないだろ、みたいな。ポストカードと手拭いは買ったけどさ。

しかしよく歩いた…道に迷ったせいもあるけど、1万4千歩で消費カロリーは300キロでチーズバーガー1個分。地下鉄の中でもよく歩かされたからなー。でも帰りは雨でなくてよかったよ。これ書いてる12時過ぎは土砂降りだもんね。
Commented by くんこ at 2015-11-26 10:20 x
私も行きたいと思ってたんだー。さゆきの解説、参考になったわ!
この手の展覧会や写真展は規制が多いみたい、最近特に。バカみたいな話だけど。
今回は開催できただけでも良かったのかもね。
しったかぶりの見学者はどこにでもいるから無視するに限る(笑)。
Commented by yukimaru156 at 2015-11-26 23:04
くんこさん、こんちはぁ~。拙い解説ですが、参考になったのであれば嬉しいです! これを機会に春画が、というより浮世絵が「北斎・歌麿・広重」だけじゃない、てのがもっと広まってくれるといいのになぁ。最近は春画の図録は無修正で出版されてるって話だけど(あたしは見たことないんだけど)、なのに展覧会が開けないのはおかしい、て言われてたみたいだよ。あれこれ書き足りなかったことをこれから書くのでよろしく( ̄▽ ̄)

知ったか見学者、せめて口閉じててくれればいーのにね。それが出来ないからしゃべるのか(笑) 
Commented by desire_san at 2016-01-18 12:27
こんにちは。
私も浮世絵が好きなので、「春画展」の内容を興味を持って読ませていただきました。
私は『肉筆浮世絵-美の競艶』展を見てきました。菱川師宣により肉筆浮世絵という絵画のジャンルが生まれ、多彩な浮世絵により発展していく過程を、作品を見をってみれて思いました。
私は、浮世絵の誕生・浮世絵の歴史と肉筆画を中心とした浮世絵の魅力を私なりに整理してみました。読んでいただけると嬉しいです。ご意見・ご感想などコメントをいただける感謝致します。
Commented by yukimaru156 at 2016-01-19 00:32
desire sanさん、こんにちはー。コメントありがとうございます! そして拝見させていただきました、「肉筆浮世絵 美の競演」。残念ながら未見なのだけど、とても細かく丁寧に解説されていてびっくりでした。こちらはこの程度のシロモノでお恥ずかしい。

あたしは浮世絵は肉筆より版画の方が好きなんですが、どちらにしても絵師やそれに関わる大勢の人たちの熱い想いに触れるとより一層楽しくなりますよね。浮世絵はずっと好きでいたいなーと改めて思いましたよ(^^)
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by yukimaru156 | 2015-11-26 00:27 | 行った観た読んだ | Comments(4)

ちぎり絵ざっか作家 さゆきの  雑記帳


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