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  ルーム  2015年 アイルランド・カナダ

『おはよう、イス1号、2号。おはよう、トイレ、おはよう、テレビ、おはよう、蛇口』
5歳のジャックの1日は、そんな挨拶から始まる。四方を壁に囲まれた、天窓から降り注ぐ太陽光だけが唯一の「外」との接点だが、ジャックは「外」を知らない。小さな世界を小さいとも思わず、壁の向うに何があるのかもわからない。わかるのは、日曜にだけやって来る男が、いろんなものを持って来ること、そして彼が来るときはクローゼットの中にいなくてはならないこと。テレビに映るものはすべて「偽物」で、「本物」は自分とママだけということだけだ。

母親のジョイは、17歳のとき誘拐され、ここに監禁された。19歳でジャックを生み、その彼も5歳になった。狭く閉鎖された空間を何とか居心地よくしようと工夫された生活品や玩具の数々が、他愛もない遊びが、観る者の胸を切なくする。
やがて些細なケンカから、ジョイは息子に「外」を見せたいと痛切に思う。自分を換金している男は、ドアの開閉に暗証番号を見せないために必ず後ろを向くように命じる。天窓は高く、窓は厚い。まともに出るのはまず無理。そこで彼女が決意した脱出方法とは…無事に出ることが出来るのだ、とわかっていても、スリリングであることに変わりはない。見ていて、かなりヒヤヒヤもする。

ジャックが初めて見る空。鳥。木。ともかくすべてが「初めて」で、テレビでは知っていても「知らなかった」ものばかり。このときの彼の表情が素晴らしい。緊張感と恐怖と、けれどそれを上回る好奇心。初めて見る犬。初めて見る「人」。ママを通してしか人としゃべれなかった彼が、少しづつ「こっちの世界」に馴染んでく過程も、見ていてほっとする。初めて見る「階段」を前に、おっかなびっくり壁伝いでどうにか足を出してくさまとかすらも。

行方不明だった少女が7年後に発見されたことで世間からの注目を浴びてしまった2人は、ジョイの実家から出られないような、再びの軟禁生活が始まってしまう。初めて知る「世界」に戸惑いつつも、やがて受け入れていくジャックに対して、ジョイは精神の均衡を失っていく。友人たちは奪われず、自分だけが奪われてしまった7年という月日。両親は離婚し、父親は「娘を誘拐した男との間に出来た子供」をまともに見ることが出来ない。感動の再会のあとに訪れた、簡単には埋まらない溝。そんな中で唯一、母親の恋人である男の存在が救いでもある。
息を殺して自分を物陰から伺ってるジャックを知りながら、彼は気づかないふりをしてつぶやく。
『あ~、こんなとき友だちがいたらなぁ。おしゃべりして過ごせて楽しいだろうになぁ』
2人の距離が縮まるのに時間はかからない。

精神的に崩壊しかけていたジョイを救うのは、誰でもないジャックだ。彼の純粋さが、まっすぐさが、彼女を立ち直らせる。
『ダメなママね』
『でもママだよ』
何てことない台詞だけど、でもココロにぐっとくる台詞だった。

「どんな俳優も、子供と動物には敵わない」と言ったのは森繁久彌だ。ホント、この映画の良さの大半をジャックが持っていった、と言っても過言ではない。もぉ~、観てて抱きしめたくなるくらいいい子なんだよ。どの表情も素晴らしいしね。
監禁男はその後どーなったのかとか、ちょっと不足に思うところもあるのだけど、そういうところもすべてすっ飛ばしてくれる、ジャックの名演だった。本作は2015年のアカデミー賞とゴールデングローブ賞(ドラマ部門)と主演女優賞を獲ったのだけど、彼こそ獲るべきだよなぁ。

どーぶつ病院の仕事のあとこれを観にハハと出かけ、ついでにハハのタブレットの故障(?)を見てもらいにショップへ行く。充電器に挿してても「充電されてません」表示が出てしまうんよ。故障したのはタブレットではなく充電器本体だった。購入して1年と1ヶ月。保証期間は1年なので「っ~!」ではあったけど、たいした金額ではなかったのでよかった。
ちぎり絵のケーキタワーについては明日にでも。






( `ー´)ノ
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by yukimaru156 | 2016-08-27 01:39 | 行った観た読んだ | Comments(0)

ちぎり絵ざっか作家 さゆきの  雑記帳


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