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  ビル・エヴァンズ タイムリメンバード  2015年アメリカ

アメリカのドキュメンタリー映画ってのは、どーしてこーも同じような作りなんだろうか…全部が全部ではないだろーが、切り口、語り口、構図、編集がみんな同じに見えるのだ。ドキュメントの相手が誰であれ、既視感しか残らない。稀有な才能、栄光、そして挫折。どんなアーティストもこの3要素で語られ、似たような写真と友人知人の賛辞を並べて終わる。ドキュメンタリーの教則本てのがあって、その通りに作られてるんじゃないだろーかとすら思ってしまうな。

ジャズ史に燦然と輝きを残すピアニスト、ビル・エヴァンズの卓越した才能と技術、聴く者たちすべてを魅了したそのピアノの旋律がどれほど素晴らしかったかを、ただ延々と彼を知る大勢の友人、知人、親族、恋人らが語るだけで終わるなんて、「内容がないに等しい」のではないか。
そりゃ、彼の演奏は素晴らしいし、楽曲も映像も残っている。残ってはいるが、どれとしてマトモには聴かせてもらえず、断片的な「さわり」程度のものでとても"なるほどやっぱりすごい人だったんだなー"とは思えない。のがヒジョーにハラが立つ。ライブ映像が残ってるなら、1曲だけでも全部やってくれればいいのに。著権の問題? を克服してこその観る価値あるドキュメントでしょうが。
どの曲に対してのコメントだったか忘れたが、こう評した人がいた。
『これこそが世界で最も美しい曲だ、神様ありがとう、と叫んだよ』
そして流れ始めた旋律はとても美しかったのだけど、すぐに映像とともに切り替わり、別の人間の別のコメントが流れる。ことの繰り返し。これを撮った人は何をどーしたかったんだ、とすら思う。

子供のころからクラッシックに慣れ親しみ、学生時代はジャズに傾倒。「ただの一音も間違えたことのない完璧さ」を持つ彼が「譜面にないものを演奏することのスリリングさ」に夢中になり、兵役を終えたあとは『評価されようがされまいが、ともかく弾きまくる』ことを自分に誓う。そんな彼に、当時すでに「ジャズと言えばマイルス・ディビス」とも言われていたジャズ界の帝王が声をかける。
『ビルがマイルスに与えたのは「エレガンス」だ。彼が加入したことによってマイルスの曲にはエレガンスさが加わった』
バンドのメンバーは彼以外は全員黒人で(ジャズ=黒人音楽でもあった。名だたる名演奏家たちはほとんどが黒人だ)、クラブの入り口で『白い野良猫が何の用だ?』と罵られることもあったらしい。そしてその都度メンバーがこう言い返したのだそうだ。『マイルスが彼を招いたんだぞ』と。

他人の演奏に対してことのほか敏感なマイルスとの共演は刺激になり、同時に彼もまたマイルスにいろんなものを与えていたと思うのだが(楽曲提供もしている)、このころから彼はヘロインを常用するようになる。再三の友人、知人、親族らの忠告も聞かず、それでも彼の演奏はさらに磨きをかけられ、およそ20年にわたる「もっとも長い時間をかけた緩慢な自殺」で51歳の生涯を閉じるまで続けられた。(家庭を持って一時期は断つこともできたにもかかわらず、のちにまた始めてしまった)

『真実と美を追求すること、その他のことはどうでもいい』
多くのピアニストたちが、彼に到達したいと願うのだそうだ。飽くなき美への探求心とそのための研鑽は、仲間の非業の死も、敬愛していた兄の自殺も途絶えさせることはなかった。
『速弾きこそがピアノの技術だと思われがちだが、ゆるやかに美しい旋律もまた技術だ。彼の演奏には彼自身が投影され、それは今なお、多くの人を魅了している』
そこまで語らせておいて、90分の映像の中に55曲もの曲を差し挟んでおいて、ただの1曲も「丸ごと聴かせない」てのはあまりにも不親切ではないか? 何かもー「もやもやいらいら」が募って、最後までこれかよ! と突っ込み、あとでハハとさんざん文句を撒き散らす結果となってしまった。ライブ映像だっていっぱい残ってるはずだし、彼の故郷の風景でも何でも入れて、ともかく観客の耳に「ビル・エヴァンズ」を残して欲しかった。もーあったまきて買っちゃったもん、映画のサントラCD。もしかしてそのために観客の不満を募らせてたのか? と勘繰りたくなったよ。

ハハと慌ただしく遅い昼食をとり、夕飯の買い物をし、CDの梱包を解くことなくシゴトへ行った。日曜なのでラクで良かったけど、「あるはずなのにどこにもないカルテ」を探す羽目になった。無事見つけられて良かったー。








( 一一) 




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by yukimaru156 | 2019-08-19 01:44 | 行った観た読んだ | Comments(0)

ちぎり絵ざっか作家 さゆきの  雑記帳


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